ものづくりとことだまの国

縄文・弥生・古墳時代の謎。古神社、遺跡、古地名を辿り忘れられた記憶、隠された暗号を発掘する。脱線も多くご容赦ください

日本古代製鉄の謎(1)糸魚川ヒスイの再発見で教訓とするべき考古学の歴史

古代の鉄の話をするのに、少し当ブログ「ヒスイの古代史」の話をお許しいただきたい。

関西人の私は縄文時代について、最盛期(縄文中期)の本場を知らないのがネック。

去年の秋、新潟・北陸・東北の各地の縄文遺跡や博物館・資料館を20ケ所近く巡り、話も聞けたおかげで多少なり知識が増え、考え方も変わった。

日本の『ものづくり文化』の背骨

中でも、糸魚川ヒスイの日本海沿岸の加工・分業スタイルが「縄文-弥生-古墳時代」に貫かれ、現代日本の『ものづくり』に繋がっていることを学んだのは大きな収穫だった。

そんなヒスイだが、1300年もの間、糸魚川ですら忘れ去られ、昭和初期までの長い間「大陸や半島からの由来」をアタリマエとして遺跡・遺物が考察されていた時代があった。

そのような中、文学者・相馬御風(そうまぎょふう、童謡・かたつむり、春よこいの作詞家)が、ヌナカワヒメ伝説から糸魚川ヒスイを推理し、相馬説に関心を持ち、小滝川で大鉱脈を再発見したのが鉱物学者・河野義礼(かわのよしのり)だった。

考古学は相馬御風を相手にせず、その結果、河野が鉱物学会で再発見を発表した後でも、しばらく発見の報を知らなかったという事実(失態)は教訓だ。

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例えば、八日市地方遺跡(石川県小松市)出土の鉄製ヤリガンナの展示説明)

八日市地方(じかた)遺跡で、2017年、柄に装着された完全形で鉄製のヤリガンナが出土したことで話題になった。

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柄付鉄製ヤリガンナ 八日市地方遺跡

以下、大阪府弥生文化博物館(大阪府和泉市)「北陸の弥生世界 わざとこころ」展より(2019年12月15日終了)

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鉄製ヤリガンナ 展示説明パネル

(パネル後半・文字起こし)出土した地層から弥生時代中期中葉のもので、柄付としては日本最古である。この段階は、日本列島で鉄器の生産は始まっておらず、朝鮮半島を経由して大陸の鉄器が少数運ばれてきているだけであった。北陸にまで貴重な鉄器が届いていたことを明らかにした

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同展パネル 八日市地方遺跡 年表

ある意味『大陸史観』で言い切るパネルの解説に、失礼ながら、糸魚川ヒスイのことを思い出した。

同展は、先日紹介した管玉の超絶技巧のほか、繊細な木製品造りの数々がすばらしかった。

もちろん、それらの展示では「匠の技」が「外来」であることなど一言も書かれていなかった。

しかし、鉄器の工具ただ一点に、このパネルの内容。

極細管玉など、当時の世界最高水準にまでものづくり技術を高めた弥生時代中期、日本国内で鉄が採られ、鉄器が造られていた可能性は本当にないのだろうか。

その可能性を考えて検証を試みる専門家は一人もいないのだろうか。と。

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パネルにはせめて次のように書いていてほしかった。

『定説では、日本列島で鉄器生産は始まっていない時期とされ、大陸から運ばれてきたものが北陸まで届いていたと考えられている。(さてあなたはどう推理しますか)』

もちろん、根拠もなく、ヤリガンナが日本製だと主張するつもりはない。

ただ、では具体的にどういうルートで誰がどのようにして運んできたのか、仮説ぐらい書けないのだろうか。鉄の材料分析データ(製造法の仮説)はないのだろうか。

ないのであれば「定説」はいつでも変わる可能性があるという立場で解説していてほしいということ。

ひとりひとりの想像を刺激するような内容にしてこそ、足を運ぶ価値があるというもの。

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定説が変わる時、私たちはドキドキワクワクするが、専門家の中にはハラハラガックリする人もいるだろう。オトナの事情というやつだ。

島根県の神庭(荒神谷)遺跡で、大量の青銅器が発見されたとき、神話の「出雲」が突然、史実として現れ、右往左往した考古学者・歴史学者が多かったことを思い出す。

荒神谷遺跡を「神庭遺跡」というべき理由

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私自身は日本の古代製鉄は紀元前に始まり、大陸・半島経由とは異なるルートで伝来した可能性を妄想している。

ただそれらのことには、少し長い考察が必要で、頭を整理しながら、少しずつ書いてゆくのが近道と考えている。

前回の「鐵(くろがね)で鉄は切れるか」はそのアプローチのひとつだと思う。

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