古代史をやっていると、現代人と古代人との遺伝的なつながりや、縄文人の遺伝子解析などでバイオテクロジーに関連した話が出てくる。
父系も含めた全遺伝子(核DNA)解析、母系ミトコンドリア解析のこと、そしてその進展を支えているPCR装置と技術について、素人ながらグーグル先生に聞いたりして、基本は頭に入れてきたつもりだ。
PCR分析(ポリメラーゼ連鎖反応)
PCRは遺伝子全般の分析が目的で、新型コロナウィルスの陽性を判定するための専用装置ではないことを、まず書いておく。
もしかしたら、PCRを、病院やクリニックで誰でも受けることができる簡易診断キットと混同している人も多いのではなかろうか。
PCRは本来、ラボ(研究室)用の「遺伝子(ゲノム)分析装置」で、生物学の知識があり、ある程度操作に熟練した技師が扱うもので、
病院・クリニックで医師や看護師が日常的に扱うような「医療機器、医療装置」ではない。
以下、リンクを張った(調査インタービュー)記事がたいへん詳しく丁寧で、内容を引用する(太字)と、
『インフルエンザには迅速診断キットがある。 ウイルスを増幅する必要もなく5分か10分で答えが出る。一方、PCR検査分析は何時間もかかり、その割に偽陽性も偽陰性も出る(≒陽性判定の精度が低い)』
※開物判断でコメントの検査を分析に訂正。( )も追加
しかし、新型コロナウィルスを判定するには、今のところPCR装置しかない。
簡単にPCRの分析手順を紹介しておく(①②③。ただ私が調べて書いているので、誤解や間違いがあれば修正します。)
①【診察現場】のどのぬぐい液、痰(たん)などの検体を採取
②【検体をラボに送付】RNA(リボ核酸)を抽出して前処理(遺伝子の断片化)→断片を増幅する手順を繰り返して陽性のシグナルを探す→シグナルがあったら→それが新型コロナウイルスの遺伝子かどうかを、すでに分かっている塩基配列情報と比較して確認
③【結果を診察現場に通知】陽性の判定結果が出たとしても、治療方法が確立されていない(新薬アビガンについては重篤化を抑制する効果が期待できるが、どの時点でどの程度を投与するのか、また全員に効果があるのか、本日時点で不明。)
一検体の判定をするのに、時間、コスト(医療保険コスト)、それに、ある程度熟練した人材、高価な装置・設備を使う。
しかしその割に、偽陽性や偽陰性が出る可能性が、新型コロナウィルスでは高いことが、先のリンク先記事に専門家の見解として紹介されている。
『(本当は肺の奥から痰などが採れたらいいが)実際は喉のぬぐい液しか簡単にとれない。・・・新型コロナウイルスの感染の場合には空咳が出て、痰は必ずしも出ない。痰が出るのは30%か40%ぐらい。サンプルを喉のぬぐい液に頼らざるを得ないので、PCR検査が陽性になる確率がどうしても下がってしまう』
要するに、割に合わないのだ。
割が合わないどころか、分析を受けるために医療機関に人が殺到して現場は混乱し、陰性判定だった無症状者がもし偽陰性(=実は陽性)だったら、かえってウィルスを巻き散らすリスクを生じさせる。
それに、世の中には、精密で丁寧なPCR分析が必要な疾患はほかにたくさんあるほか、リンク先記事で述べられているが、諸外国(中国や韓国など)に比べ、バイオを商売にする業者が少ない日本では、民間保有のPCR装置台数が少ないのが現状だという。
そんな中で新型コロナウィルスの検査依頼が殺到すれば、限られたリソースが占拠されてしまう。
今は時間を稼ぎ『本当に必要な人のために検査体制、医療体制を維持すること』が最優先される
新型コロナウィルスに関連して『PCR検査をもっと拡大しろ』と主張したり、『PCR検査が受けられない』と不安に思う人が多いと報道されている。
中には『忖度して保健所や厚生労働省が検査を受けにくくしている』など、一時よく使われた『忖度』という表現を使い、あきらかに政権批判をニオわせたひどいプロパガンダ(政治宣伝)ニュースも目にする。
国民の多くが不安に感じている中、それらの報道は、不満と怒り、パニックをあおるだけのフェイクニュース、デマと断言せざるを得ない。
そういう汚名を着せられたくないなら、なぜ、日本ではPCR分析が進めにくいのか「事実」を 調査報道 すべきで、視聴する方は感情だけに振り回されないよう気を付けた方がよい。
もし保健所や厚生労働省が忖度していると主張するのであれば、それは地域の検査体制、医療体制に対してというのが事実だろう。
学校を閉鎖することに対しても、育児や有休問題など細かな理由を挙げて異論も出ているようだが、よく見ていると、それは報道する者、する側の意見に過ぎないことが多い。
多くの国民は、今は緊急事態で、冷静に『仕方がない』と考え、我慢していると思う。
それが地震・台風などの自然災害と隣り合わせに暮らしてきた、この国の住人多数のマインドではないだろうか。
未知の新型感染症対策には、ベストはなくて、ベターな選択しかなく、最前線で活動している人たちを背中から応援するほかない。
これを契機に、私たちの暮らし方や経済、仕事に対する考え方が変わって行く大きな節目になるだろう。
最後に、リンク先記事からひとつ、なるほど!と思ったコメントを引用。
『英首相官邸筋に「新型コロナウイルス対策を教えて」「ロンドンに東京五輪を代替開催する準備はあるの」「イタリア便はどうするの」と尋ねても「科学や医学に従って計画を実行に移すだけで政治や官僚がうんぬんする余地はない」という答えが返ってきます』
日本はイギリスと同じく伝統的な議員内閣制。
かつ優れた専門家集団が各界にいてその協力のもとに政策なり計画が提言され、実行される。新しい体制や組織の構築には多少時間がかかることも覚悟する必要がある(ブレグジットの混乱が好例。民主主義のコスト)
それを『和の国(島国)のやり方』といきなり文化論に持って行こうとする向きもあるが、そのような話ではなく、近代の法治国家であるか否かの問題だ。
日本は、ひとりの人物に強大な権限が与えられた大統領制、ましてや法律を恣意的に曲げて運用できる一党独裁のの国ではないことを、あらためて認識しておく必要があると思う。
(参考比較)迅速診断キット(インフルエンザ)
①【診察現場】のどのぬぐい液、痰(たん)などの検体を採取→検体をキットに滴下→インフルエンザなど診断したい目的のウィルスがあれば発色→(簡易)陽性判定→診断書