ものづくりとことだまの国

縄文・弥生・古墳時代の謎。古神社、遺跡、古地名を辿り忘れられた記憶、隠された暗号を発掘する。脱線も多くご容赦ください

【新説・四天王寺】熊野のこん跡 『あしかき』三首の考察【道標神・クナト信仰】

はじめに

『難波津や ふるき昔の あしがきも まちかきものを 転法輪所』鎌倉時代、#四天王寺 #転法輪石 を詠んだ #慈円愚管抄の著者、天台座主)の詩。#あしがき の解釈がたいへん難しい。#クナト信仰 #熊野詣 #道標の信仰 新カテゴリー #新説四天王寺

目次

本文

古い四天王寺の風景の中に-『あしがき』三首

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葦垣

前回紹介した、大伴家持選(万葉集巻第二十)防人の詩(755年)の中に「葦垣(あしかき)」を詠んだ詩がありました。

www.zero-position.com

葦垣(あしかき)の 隈処(くまと)に立ちて我妹子(わがせこ)が 袖(そで)もしほほに 泣きしぞ思はゆ

「葦垣のすみに立ち、袖もぬれるほどに別れを泣いた妻を思い出す」(巻二十 4357/刑部千國)

*****

鎌倉時代に転法輪石を詠んだ、僧慈円*1諡号は慈鎮和尚)の作。

② 難波津や ふるき昔の あしがきも まちかきものを 転法輪所(この寺を おかむしるしの石の上に かたく契を むすびけるかな)

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四天王寺 西大門 解説板

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同じく、鎌倉時代後鳥羽上皇が熊野詣(くまのもうで)で詠んだ詩。

③ 難波がた 入りにし日を ながむれば よしあしともに 南無阿弥陀仏後鳥羽上皇

『あしがき』=古い。。。しかし

詩に詠まれる『あしがき』の解釈に、ずいぶん時間がかかりました(数年以上かな)

葦「アシ」は縁起が悪いということで「ヨシ」と読んだのがおそらく鎌倉以降で、当初『良いも悪いも』ぐらいの意味で考えていました。

しかし、それだと、慈円の詩(②)の解釈がヘンになります。「あしがきもまちかきもの → わるいものもあたらしいものも?』

調べてみると『葦垣は古びて見え、乱れやすく、また、その結び目は間が近いところから「古 (ふ) る」「乱る」「間近し」などにかかる』と。(葦垣の(あしがきの)の意味 - goo国語辞書

なるほど。それなら「あしがきもまちかきもの」は『古いものも、新しいものも』になり、スッキリしました。が、しかし。

『あしがき』のもうひとつの意味、隈処(くまと)

しかし。ここで先の防人の詩・4357番(①)

葦垣の 隈処に立ちて我妹子が 袖もしほほに 泣きしぞ思はゆ

『隈処、くまと』の一般的な解釈は「すみ、はしっこ」で「葦でつくられた垣のすみで」となりますが。

私は「隈処」を「クナト、岐、久那土」「熊野」の社と解釈します。

「岐、チマタとも読む」「クナト」は古くは 道の神 を祀ります。(現在の御祭神はどうであれ、もともとは道の分岐、山の出入の道しるべ、あるいは、長旅の中継点として置かれました。全国に熊野社が多い理由です。サルタヒコも同じ。)

すると防人の詩(①)を次のように詠むことができます。

「ふるさとの葦垣の(クナト)社まで見送りに来て、袖もぬれるほどに泣いていた妻を思い出す」

また、②の「あしがきもまちかきもの」を、遠い・近いの距離感も加わり『遠くて古いものも、近くて新しいものも』と、より転法輪所らしく詠むこともできるように思います。

www.zero-position.com

この解釈の根拠を、ひとまずいくつか挙げておきます。

同じ防人の詩・4349番に「 百隈の 道は来にしを またさらに 八十島過ぎて 別れか行かむ(刑部三野)」があります。百隅(ももくま)とは、東国から難波津に至る 八十国(やそくに) の長い道のりを表現し『たくさんの熊野(クナト)の社』を通って来た長旅を意味します。難波津からは瀬戸内の海路・十島(やそしま)になります。

四天王寺平安時代から皇族・貴族の熊野詣の起点でした。熊野詣では九十九王子といって道しるべとなる神社が置かれ、行幸のそれぞれで奉斎されました。

クナトは熊野の前身とも言うべき古い信仰。災いを塞ぎ、幸せを呼び込むサイノカミ信仰(際・境の信仰)と密接につながっています。

防人の詩がつくられた時代(奈良時代)には、全国、特に東国には色濃く残っていたものと考えられ、例えば4357番(①)では故郷から難波津まで、長く細い道のりをクナト社は、防人と家族をつなぐ心の絆だったと思います。

そういう視点で詠むと、4404番(上毛野牛甘)は、また深い味わいになります。

難波道を 行きて来までと 我妹子が 付けし紐が緒 絶えにけるかも

「難波道を無事生きて帰って来てね、と妻がつけてくれた紐(=キズナ)が切れてしまいそうだよ」

(続く。近日)

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*1:史書愚管抄』を記した。摂政関白の九条兼実は同母兄。38歳で天台座主になる。慈円天台座主就任は四度(第62、65、69、71世)。天台座主として四天王寺に足を運んだものと思われます(四天王寺は元・天台宗