神戸市立高等専門学校、高田知紀先生(都市工学科)は「神社と防災」をテーマにいくつかの研究論文を発表されている。
2012年の「東日本大震災の津波被害における神社の祭神とその空間的配置に関する研究」は「スサノオを祀る神社は被災を免れていた」といったセンセーショナルな感じで報道されたので覚えている人も多いと思う。
その後も精力的に研究なさっておられるようだ。
大変興味深い研究群で、それぞれのテーマと論文リンク先、サマリー・抄録を箇条書きにしたものをアップ(備忘録でもあります)
2012年・東北沿岸調査だけ、それも報道者の主観まじりの記事だけ読んでしまうと「スサノオ祭神の神社は安心で、それ以外は危ない」といった「誤まったイメージ」が生まれる。報道する側の姿勢に問題を感じる。
実際、2015年・紀伊半島沿岸研究ではアマテラス系の低リスクが確認されている。地域の古代史の背景が異なるため当然の話だが、高田先生グループのような地道な実証研究は「通し」で読み、比較し、地域ごとの違いを理解することが大切だ。
そういう視点での追加報道・分析報道が欠けていると思う。
箇条書き中【説明】や「※」は開物発事が追記。「空間的配置」は主として「標高」と読み替えてもよいと思う。
東日本大震災の津波被害における神社の祭神とその空間的配置に関する研究 (2012)
(土木学会論文集、高田知紀、梅津喜美夫、桑子敏雄)
https://ci.nii.ac.jp/naid/130004560141
・本研究では祭神の多様性は人びとの関心に応じた差異化【歴史的経緯】の結果であるという仮説にもとづき宮城県沿岸部の神社の祭神と空間的配置に着目しながら被害調査を行った
・スサノオを祀った神社、またスサノオがルーツと考えられる熊野神社はそのほとんどが津波被害を免れていた
・この結果は地域の歴史や文化をふまえたリスク・マネジメントのあり方について重要な知見を提供する
紀伊半島沿岸の神社における南海トラフ地震の津波被災リスクの検証(2015)
(土木学会論文集、宇野宏司, 高田知紀, 辻本剛三, 柿木哲哉)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kaigan/71/2/71_I_1603/_article/-char/ja/
・紀伊半島には熊野信仰やお伊勢参りで知られる多くの神社が鎮座している
・太平洋に面する紀伊半島沿岸は2012年に公表された内閣府の南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)で甚大な被害が出ると予想されている
・平野部の集落での避難場所の確保が重要な課題のひとつになっている
・紀伊半島沿岸1キロ圏内神社の空間配置の諸情報(緯度経度・標高)と内閣府による津波被害の想定結果を用いて南海トラフ地震時における神社の津波被災リスクを検証した
・境内が直接被災するのは2割程度に留まる【8割は被災しない】が、こうした神社の多くは浸水深が1メートル超で避難場所には適さないことがわかった
・祭神別では伊勢神宮の主祭神である天照(アマテラス)大神とその周辺の神々で津波被災リスクは低くなっていることが明らかにされた
由緒および信仰的意義に着目した神社空間の自然災害リスクに関する研究 : 和歌山県下の398社を対象として(2016)
(実践政策学、高田知紀、桑子敏雄)
https://policy-practice.com/db/2_143.pdf
・本研究は「ある土地において信仰上の重要な役割をもつ神社は、自然災害発生時においても安全性を担保しうる立地特性を有している」という仮説にもとづいている
・和歌山県下の398社を対象に、その自然災害リスクのポテンシャルを検証することを目的として実施した
・GIS【地理情報システム】を用いた分析、現地調査を通して、津波、河川氾濫、土砂災害のそれぞれのリスクと神社の立地との関係を分析した
・和歌山に深いルーツを持つイソタケル系神社、熊野系神社、王子系神社の多くは、自然災害に対してのリスク回避性が高い立地であることを明らかにした
・特に、和歌山県で古代から信仰上の重要な意味をもつ王子系神社の立地特性は、津波、河川氾濫、土砂災害のいずれの災害リスクも回避しうるものであることを示した
・この研究成果は、伝統的に、神社の立地には災害リスク対応という人びとの意識が反映されていることを意味しており、今後の防災・減災計画を検討するうえでふまえるべき重要な知見となる
淡路島沿岸の神社における南海トラフ地震の津波被災リスクの検証(2016)
(土木学会論文集、宇野宏司, 高田知紀, 辻本剛三, 柿木哲哉)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejoe/71/2/71_I_677/_article/-char/ja/
・国生み伝説で知られる淡路島の海岸から1キロ圏内には多くの神社が鎮座している
・淡路島沿岸は2012年に公表された内閣府・南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)で兵庫県下最大の津波被害が出ると予想されており、避難場所の確保が重要な課題のひとつになっている
・淡路島沿岸1キロ圏内神社の空間配置の諸情報(緯度経度・標高)と内閣府による津波被害の想定結果を用いて、将来の南海トラフ地震時における淡路島沿岸域の神社の津波被災リスクについて検証した
・その結果,多くの神社が直接の津波被害を免れ、長い歴史をもつ神社の現在の空間分布は過去の大規模災害によって淘汰された結果を示しているという仮説を裏付ける結果が得られた
・また祭神による津波被災リスクの違いがあることも明らかにされた
延喜式内社に着目した四国沿岸部における神社の配置と津波災害リスクに関する一考察(2016)
(土木学会論文集、高田知紀, 高見俊英, 宇野宏司, 辻本剛三, 桑子敏雄)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejsp/72/2/72_I_123/_article/-char/ja/
・本研究の目的は「延喜式神名帳に記載された式内社は大規模自然災害リスクを回避しうる空間特性を有している」という仮説にもとづいて、特に四国太平洋沿岸部における南海トラフ巨大地震の想定津波浸水域と延喜式内社の配置の関係性を明らかにすることである
※延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう):延長5年(927年)にまとめられた『延喜式』の巻九・十のこと。当時、官社に指定されていた全国の神社一覧(WiKiより)
・高知県沿岸部777社、徳島県沿岸部438社について、津波災害リスクについて、GIS【地図情報システム】による分析を行った結果、高知県では555社、徳島県では308社が津波災害を回避しうる結果となった
開物発事・所感
個人的には、海進・海退に絡んだ(築造)年代から考えて
● 縄文遺跡
● 前方後円墳を始めとした古墳
● 十世紀ごろまでに創建された真言宗(空海さん)や天台宗(最澄さん)の古寺
も同じように検討の余地があると思う。
川筋や奥地の縄文遺跡や古寺は、土砂災害時の避難地に適しているケースも多い印象。
テーマ直下、カテゴリーの「防災」クリックで、過去記事一覧
今週のお題「わたしの自由研究」