はじめに
山形県の霊山 #月山 に始まり、長じて幕末に #大坂月山流 、現在は三輪山麓で刀鍛冶を行なう #月山日本刀鍛錬道場 を見学。芭蕉翁が『霊泉を選びて、ここに潔斎して剣を打ち』と書いた高度なものづくり精神に少しだけ触れることができました
目次
本文
月山日本刀鍛錬道場
(34.53244324266221, 135.8522904236967)/奈良県桜井市茅原228−8/山の辺の道。狭井神社から徒歩10分(土日のみ開館。ただし不定期)
ちょうど2年前、『日本の古代製鉄』というシリーズを(6)まで書いて止まっております(記事末シリーズ各記事へのリンク)
ひとつは、月山日本刀鍛錬道場を見学してからということもありましたが、長いコロナ禍で、土日の開館日もほとんど閉まっていて、いつのまにか2年が経っていました。
先週末、ようやく念願叶い、見学してきました。
和魂(にぎたま)
月山流は、室町時代に最盛期を迎えた山形県、出羽三山の聖地・月山(がっさん)に始まる刀鍛冶集団。
芭蕉翁が『奥の細道』で、月山中腹の鍛冶小屋を訪れた時『この国の鍛冶、霊泉を選びて、ここに潔斎して剣を打ち、ついに月山と銘を切りて世に賞せらる』と残しており、刀鍛冶の神聖儀式の様子と、清冽な水との縁が深いことがわかります。
江戸期末に月山貞吉が大坂に移住し、幕末の争乱期の刀剣を造り、大坂月山派 の祖となりました。(大阪市中央区槍屋町一丁目2に、貞吉の子・初代の「月山貞一旧居跡」碑)
流派は、明治の廃刀令、戦後の進駐軍の作刀禁止令という苦難を乗り越え、今は三輪山の麓に移り、月山貞利氏が古来製法に則った刀鍛冶の伝統を繋いでいます。
百錬精鐵 精神の世界
師匠(貞利氏)の動作に合わせて以心伝心、二人が 相槌を打ち
師匠は(円座の横・写真中央奥の)鞴(ふいご)で火勢を調節しながら、赤く焼けた炭に鉄を突っ込み、焼き、また叩くを繰り返し、頃合いを見て焼入れ(水に漬ける)します。
たたく→焼く→焼きを入れる・・・その間、鉄は伸ばされ・折りたたまれ、が繰りかえされ、最終的に数万の層になるほど鍛えられるそうです。
百錬精鐵によって刀に生まれるのが 綾杉(あやすぎ)紋。
月山流を特徴づける秘伝の美しい紋様です。
このような紋様を生み出す鍛冶は、ダマスカス~インドに伝わる伝統製法に共通しており、中国大陸や半島で主流の 溶融した銑鉄を型に流し込んで造る鋳鉄法(間接製鉄法)とはまったく異質の技術(直接製鉄法) です(シリーズ5)
美しい紋様が証である金属鉄の中に畳み込まれた層は、強靭性をもたらすだけでなく、錆びない(錆びにくい)鉄製品を生み出します。
日本古代製鉄 シリーズ
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