異形(いぎょう)のもの
遮光器土偶は亀ヶ岡遺跡の地元では「シャコちゃん」と呼ばれている。津軽の木造(きづくり)駅に電車が来るとき、駅舎の巨大シャコちゃんの目が光り、子供たちが怖がるので今は中止になったが、
宇宙人説もあるほど理解不能で巨大な造形が、いるはずもないところで、目を光らせれば、子どもたちには相当のインパクトだろう。
ブリコラージュ(寄せ集めの空想と創造)
フランスの文化人類学者・クロード・レヴィ=ストロースが著書「野生の思考」で提唱した考え方。
呪術や神話がどのようにつくられたのか、人類共通の理論、というとわかりやすいかも。
それぞれの民族や文化に伝わる「伝承」の
エピソード、人物、生き物の情報が、コラージュ(継ぎはぎ)され、ひとまとめにされる
最初は、ひとりひとりの中で空想され、次にひとつの集団(民族、文化)の中で、カタチやイメージが創造され、共有される。
その結果として、あり得ないコラージュ(組み合わせ)、この世のものではない「異形のもの」になる。
世界共通で人面の魚など。 美しくなったのがマーメイド伝説。
日本では「あの世」と「この世」のサカイメ、キワ、サイ(塞)にいる存在、妖怪やモノノケの類い、あるいは神。
やちまたの神・サルタヒコ(鼻高神)、その発展型の天狗、庚申(猿神)さんはこの種の神々だ。
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さて、遮光器土偶。ブリコラージュされた「神」のカタチ。あり得ないもの同士がくっついて、ヒトガタになっていると考えてみた。
なにが組み合わされているのだろうか?
とりあえず、天理参考館の・亀ヶ岡物の展示品(祈りの考古学、終了)で考えてみた。「自分で考えてみてね式」のよく練られた展示だったので、お言葉に甘えて。
● カオと目:前記事で書いた岡本太郎・太陽の塔の解釈。目を閉じた新生児の表情。あの世(前世)からこの世に再生してくるイメージかも知れない
● 紋様:数多くの出土品で繰り返される磨消縄文(すりけしじょうもん)。アイヌの紋様にも似ている。流れるもの、変転、循環するものの表現か。
● カラダ:「中空」の亀型土製品。遮光器土偶の顔がついたものがある。母体を亀型に見立てた可能性。「水」のイメージ。土偶の腹部に小さな穴があいていて水を流していたのかも知れない
● アタマ:香炉型から「火」のイメージ
● アタマ(火)+カラダ(水、中空)+磨消縄文の組み合わせは、トータルで竈(かまど、おくど)のイメージ。火焔土器に通じる気がする
女性の(人生の)守り神
まとめてみると、出産(安産)、子育て(子安)、調理などの「女性の日常やイベント」にかかわるイメージとカタチが、ひとつの遮光器土偶に、組み合わされていることがわかる。
遮光器土偶は、アタマ、カラダ、ウデ、アシなどがバラバラに出土することがほとんどで、壊されて埋納されていた可能性が高い。
例えば一人の女性がその人生を終えた時、コラージュされた彼女の分身・守り神は分解され、それぞれの「徳」として、娘やムラの女性で分かちあわれたのかも知れない。
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調理について、時代は下るが、下鴨神社・斎王の大炊殿(おおいどの)の竃神(おくどさん)、水分(みくまり)、火伏せ(ひぶせ)の各信仰にも継承されているように思う。
また、伊勢・外宮の豊受大御神は、衣食住の女神様。「受」は「御食(みけ)」に通じ、古代、調理は女性の神聖な仕事であったと考えられる。
北海道・北東北の縄文遺跡群
北海道・北東北の縄文遺跡群は、北海道、青森、岩手、秋田の4道県・18遺跡エリアで構成される。